新媚薬エド(婦警編・前編)


3.心と体の狭間


IWAN3055<イワン>は、<エド>の効果を相殺する作用を持つ化学物質である。 しかし、<エド>の構造をもとに化学式から合成されたこのIWAN3055<イワン>は、元来生体内には存在しない物質であり、 強力な、あるいは致命的な人体への有害作用を有している可能性があった。
ラットによる実験では、少なくとも<エド>投与後のメスの性的興奮は<イワン>によりほぼ相殺されることが確認されたが、 人体への投与はまだまだ時期尚早といえた。良識ある化学者であれば、誰でもそう考えるだろう。




浅賀病院は、静かな山麓に位置する少しひなびた建物だが、今でも入院・外来患者を残し、立派に機能している地域中核病院である。 その最上階の一室で、孝明は婦警とそのフィアンセを待っていた。 浅賀孝明、彼は正真正銘の医師であったが、亡くなった患者の臓器を無断で取り出したことの罪に問われ、 今は医師免許を剥奪されていた。孝明が大学の研究室に残れたのは、 孝明の兄、浅賀恭介病院長が大学側にリベートとして多くの寄付金を施したのが本当の理由であろうが、 孝明が有能な研究者であることもまた、全くの嘘とはいえなかった。
重い扉が左右に開き、婦警とそのフィアンセが部屋に入ってきた。 どんな嘘をついてフィアンセを連れてきたのか知らないが、フィアンセはきょろきょろと落ち着かない様子だ。 孝明は婦警にそっと耳打ちすると、「お疲れでしょう。お茶でも用意しましょうか」とフィアンセに微笑みかけた。
「優子さん。これはどういうことなんですか」フィアンセはまだ事態を飲み込めないでいるようだ。 フィアンセは椅子の後ろで手錠をかけられ、婦警に取り押さえられた格好になっている。 孝明はすばやくフィアンセの左肩に薬液を注射し、婦警のまだ赤く腫れた左頬にキスをした。


呆然と凝視するフィアンセの目の前で、優子は男のズボンのジッパーを下ろし、男のペニスを頬張った。 優子の中にはフィアンセの面影はほとんどないに等しかった。ただの見学者にすぎなかった。 男が優子の吸引でくぼんだ頬からペニスを無理やり離すと、ポンと空気鉄砲のようなはじける音がした。
「パンティを下ろして、あそこを見せてみろ」男は優子に命じた。優子はちょっと逡巡したが、 諦めたように黒いハイヒールを外すと、ストッキングを手馴れた格好で脱ぎ、湿ったパンティを下ろしていった。 最後に股間からタンポンを引き抜くと、床に大量の血液の残骸と愛液とが滴り落ちた。 優子は、恥ずかしさでこの場をすぐにでも逃げ出したい気持ちに襲われた。 優子の瞳は男でもフィアンセでもなく、宙をさまよった。
「やめれくれ」遠くでろれつの回らない低い声がした。 優子はその声にぴくりと体をすくめると、血液と愛液で汚れた床に崩れ落ちた。 「助けて・・・」優子の声にならない叫びに男は満足そうに微笑み、黒皮の手帳になにやらメモを取り始めた。


孝明は生理で汚れた婦警の膣内に、ぱんぱんに膨張した自分のペニスを挿入した。 想像したよりも膣のしまりは悪く、ずぼずぼの状態だったが、孝明はすっかり興奮していた。 薬物投与でとても正常とは言えなかったが、隣に婦警のフィアンセが見ているという事実が、孝明の征服欲をさらに増長させた。
孝明の太腿に婦警の血液とも愛液ともつかぬどろりとした液体が、ぬめりと流れ落ち、 婦警の体は前のめりに崩れ落ちていった。孝明は婦警の背後からのど首を右手で鷲掴みにし、 左手で婦警の股間を孝明のペニスに押し付けると、大量のスペルマを婦警の膣内に放出した。この日、三度目の精射だった。
婦警の精神を確実に破壊するに十分すぎる量のスペルマが、婦警の体内に吸収されたことになる。 孝明は婦警の美しい肢体が、規則的な痙攣を始まる様を詳細に観察し、婦警の瞳が上方固定したことを確認すると、 婦警の太腿に一本の注射を打った。


4.理性と殺意


優子は、歓喜の頂点にいた。重く圧し掛かっていた暗雲のようなフィアンセへの想いは、つかの間完全に消失し、 エクスタシーの嵐が優子を支配していた。そして、歓喜の頂点はさらに高みを目指し、 優子の頭は真っ白にバーストし、鼓動は停止したかに思えた。
それは、突然の出来事だった。目の前には、小汚い笑いをしたみすぼらしい男が立っていた。 首をゆっくり回すと、椅子の上には優子のフィアンセが涎をたらして、優子の一部始終をぼんやり眺めている。
一瞬、記憶が頭の中によぎると、優子は男に対する耐え難い殺意を覚えた。 優子の鋭い視線が男を捕らえると、男の声はかすれ、震えた。「お、お前が望んだんだからな。お、俺は、強制してないぞ」
優子の残された理性が優子の殺意を邪魔した。優子は呆然と大量に汚された床を眺めた。 それは、おそらく自分の血液や、排尿・排便物に違いなかった。おそろしい自責の念が優子を襲った。 なぜ、なぜ、なぜ・・・。気がつくと、優子はとてつもなく大きな悲鳴を上げていた。


IWAN3055<イワン>はとんでもない食わせ物だった。危うく命を失うところだった。 孝明は自嘲気味に笑うと、べっとりと血糊のついた婦警の顔につばを吐きかけた。 婦警の体はくの字に折れ曲がり、着衣は乱れ、腐敗臭が漂っていた。 そう言えば、この婦警の名前も知らないな。孝明は軽い溜息をついた。 向精神薬と麻薬のカクテルをたっぷりと喰わしてやったから、しばらく意識はないだろう。 いや、このまま呼吸が止まってしまうかもしれない。あのフィアンセのように。
孝明はやれやれといった格好で、部屋を後にした。 父の時代、精神科病棟だったこの部屋は、いつでも狂気を帯びている。 <エド>の実験場としてこれほど相応しい部屋はあるまい。漆黒の闇に冷たい雨音がこだましていた。


5.最終章


優子の頬が冬の気配を感じた。誰かを愛したことがあった。 憎しみの殺意を覚えたことも。あれは春のこと?それとも夏?秋?
誰もわたしを助けてくれないけれど、わたしも誰も助けられない。 そう言えば、最後に体を許した男は、名前も知らないのね。 殺したいほど愛していたような気もするけれど・・・。(了)



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